『基礎を積みかさねて希望を探して』東京都文京区37歳男性利用者さんの声
イ:まずは自己紹介と現在の状況からお願いします。
声:実家は千葉市ですが、今はコンビニアルバイトをしながら都内で一人暮らしをしています。
イ:一人暮らしするまでの経緯を教えてもらっていいですか。
声:そのためにはかなりさかのぼって話す必要があります。私は高校生の時に犯罪被害にあい、そのことがきっかけで卒業後に実家にひきこもっていました。20歳頃からアルバイトを始めましたが、仕事を転々とした生活をしていました。やはり、犯罪被害によるトラウマ体験が理由にあり、25歳の時に初めて精神科を受診し、そこで抑うつ状態として精神安定剤を処方されました。その後は療養生活として実家に長い間ひきこもっていました。
イ:その時のご家族との関わりはいかがでしたか?
声:家族は療養には協力的でした。ただ、ひきこもり生活が長引く中でなにか変化のきっかけを、という事で妹が一人暮らしをしてみることを提案してきました。物件探し等の準備を家族がやってくれたこともあり、30代前半から、まずは実家から離れた東京の西側で仕送りを貰いながら一人暮らしを開始しました。当時は一人暮らししている最寄りのサポステ※1に通っていました。その後、そこのサポステを受託している法人が運営している福生の入寮施設での合宿を経て、一度は実家に戻りました。ただ、実家に戻るとやはりひきこもり気味になってしまうので、現在の文京区のマンションで一人暮らしを再開したという経緯です。
イ:そこからふなサポを利用するきっかけを教えて下さい。
声:一人暮らし再開後にハローワークで職探しを始めたのですが、働く上でまだ様々な課題や障害があり、ハローワーク職員から千葉県が行っている『ライトハウスちば』という若者支援機関※2を紹介されました。そこでは週3回の若者支援プログラムという通所型の支援メニューがあり、そこでの通所と相談を開始しました。そその後、ライトハウスちばスタッフの中でふなサポでも働いている方がいた事もあり、次のステップとして昨年の8月頃にふなサポを紹介されたのが利用のきっかけです。
イ:ふなサポを利用するにあたって、なにか不安などはありましたか?
声:先ほど述べた通り、既に他のサポステには通っていた事があったのでどういった場所かは知っていたので特に不安はありませんでした。もっというと、長い間精神的な理由で感情が薄れていて周囲の人に促されるまま、流れにのって機械的にここまできたという部分があります。
イ:本当に紆余曲折の後にふなサポに繋がったのですね……。ふなサポ利用していく中で、お仕事をする上で役に立った支援内容や関わりを教えて下さい。
声:やはり、仕事に関する基礎的なものを学べるセミナーが役に立ちました。具体的にはPC基礎講座、ビジネスマナー講座などでの敬語の使い方や所作は今のコンビニの仕事でも役に立っています。
イ:声さんはふなサポ利用開始した当初からしっかりとした敬語を話されている印象があります。
声:あちこちの場所にたらい回しになってきた経験が故ですかね。ただ、やはり基礎的な土台をセミナーを通じてしっかり固められたのが良かったです。
イ:ふなサポ利用から今のお仕事に就くまでのステップを教えて下さい。
声:ふなサポのセミナー参加と担当のキャリアコンサルタントとの相談を続けていく中で、まずはアルバイトから始めてみようということでコンビニで働くことを勧められ、手が足りていない場所に使ってくださいとアピールして面接に受かり、今年の8月から働き始めています。今の自分の課題はお仕事をする上での基礎を積むという部分なので、コンビニの仕事は様々な業務をおこなう必要があるので丁度いいです。コンビニは自分の課題のひとつでもある、早さを求められ、おつりを渡し忘れたなどの失敗も多いので辛いですが、頑張る価値があります。今は週2日3時間のシフトですが、今後、週3日、週4日と増やしていく予定です。職場の店長は理解のある方ですが、今は自分の精神疾患の事は職場には伝えていません。現在も精神科に通っており、服薬もしていますが、今後、手帳※3を取得するか、精神疾患をオープンにして働くか※4どうかはふなサポとも相談しながら決めていきたいです。ただ当分は今の仕事を頑張っていく予定です。
イ:精神疾患の治療を行いながら一人暮らししてアルバイトもしてと、とても頑張っているのですね。近況をもう少し詳しく聞かせて下さい。
声:アルバイトをしながら、今も次のステップに向けて、ふなサポでの担当キャリアコンサルタント、心理カウンセラーの相談やセミナー参加は続けています。それ以外に必要がない時は出来ないのですが、一人暮らしだと自炊や掃除など日々の家事でやることが多く、それが結果的に治療の一環になっていると思います。自炊と言ってもうどんやそばを茹でてネギを切って、程度ですが、それでも自分の事を自分でやらなければいけないので大変です。そんな一人暮らしをする中で、特に時間管理の大切さを学びました。実家だとまたひきこもってしまう可能性が高いので、今の生活は状況が好転している感覚があります。
イ:今後、こうなっていたいという希望や夢があったら聞かせて下さい。
声:希望は探している途中です。先ほども伝えた通り、今は感情が薄れているのですが、これまでも感情が回復傾向になると現実を意識して死にたくなることがありました。だからこそ、希望を見つけることで感情が戻っても死にたくならないようにしたいです。また、身近な生活面での希望だと、今も家族からの仕送りで生活しているのですが、もっと収入を増やして、将来的には年金を払えるようなら払いたいです。
イ:とても大変な経験をされてきている中でも頑張っている姿は、同じように精神的な背景を抱えている方にも参考になると思います。最後に、まだふなサポへの『さいしょの一歩』を踏み出せていない方に対してメッセージをお願いします。 声:今、もしもひきこもっているならば、変なプライドを捨てて、なんでもいいのでまずは開けられるドアは開きっぱなしにしておく事をお勧めします。それこそ、最初は愚痴を吐くためにふなサポに相談に来てもいいかもしれません。私の場合、止まってしまうとまたひきこもっているので、とりあえず約束を作って出歩いています。
(令和2年10月インタビュー実施)
【注釈】
※1:地域若者サポートステーション。厚生労働省と各地域の自治体からの委託事業として運営され、令和2年度の時点で全国に177か所設置。
※2:千葉県子ども・若者総合相談センター『ライトハウスちば』(千葉県の委託事業)39歳までの子ども・若者、その御家族や御関係者等を対象とした無料の相談窓口。令和2年度の時点でふなサポと同じNPO法人セカンドスペースが委託運営。http://lighthouse.pref.chiba.lg.jp/
※3:精神障害者保健福祉手帳。精神障がいがあることを証明する手帳。等級に応じて各種福祉制度が利用できる。
※4:オープン就労。障がいのあることを企業に開示して就職する働き方。障がいに対する合理的配慮を受けられたり、空白期間に関する理由を説明し易くなる等のメリットがある一方で、求人の幅が狭まったり、障がいを開示しないクローズ就労と比べて給与が劣る場合が多いなどのデメリットもある。