『発達障害の特性を活かして』船橋市27歳男性利用者さんの声
イ:まずは自己紹介と現在の状況からお願いします。
声:公務員試験に合格し、今年の4月から某自治体での障害者枠雇用として勤務予定です。すでに配属先も決まっているので、今度の土曜日に勤務予定の建物の見学をしてきます。家からどれぐらい時間が掛かるのか、どんな建物なのか、近くに何があるか、などの周辺環境を調べてこようと思っています。
イ:準備万端ですね。それでは、まずはふなサポ利用のキッカケから教えてください。
声:2020年3月に『ライトハウスちば(以下ライト)』という若者支援機関※1に電話相談をしたのがキッカケです。その頃はまだIT系の派遣会社に在籍中でしたが、様々なトラブルがあって自宅待機中でした。そんな時にライトに色々と電話で相談させていただきました。結局その会社は辞めることになったのですが、失業給付を貰いながらなんらかの就労支援施設に通おうと思っている中で、ライトからいくつかの施設を紹介され、その中のひとつにふなサポがありました。7月からふなサポに登録したのですが、運営がライトと同じということもあり、今までライトで相談したことも把握した上で関わってもらえたのでとても良かったです。※2
イ:もしよかったらIT系派遣会社でのトラブル等についてお聞きしてもよろしいですか?
声:はい。元々は客先勤務で正社員として入社したのですが、働いてみて色々と困難なことが起こり、医療機関を受診しました。そこで発達障害※3の診断を受けて、障害者手帳※4も取得して途中からその会社の障害者雇用枠※5に切り替わりました。ただ、その会社は発達障害に対して無理解で、今でも忘れない言葉があります。なかなか派遣先を提示してくれずに自宅待機状態が続く中、早く働きたいという要望を出した際に上司から「働くのは発達障害の病気を治してからですね。」と退職を促されたのです。発達障害は特性であって病気ともまた違うし、治すといったものではないのに……。
イ:何のための障害者枠かという感じですね。合理的配慮といっても企業によって取り組み方や特性理解度が異なるというのはよく聞きますが、これはあまりに無理解ですね。
声:はい。それと、私には障害特性として人とのコミュニケーションの距離感がなかなか掴めないという課題があって、誰にでも気さくに声をかけてしまってそれが人によっては過剰なお節介に感じられてしまうそうです。それに、暗黙のルールというのもよく分からなくて、それでIT系派遣会社で対人関係のトラブルが発生してしまい、それも自宅待機の理由の一つでした。でも、今から思うとあの時思い切って辞めてよかったです。
イ:そういった紆余曲折があってふなサポに繋がったのですね。それでは、ふなサポで就職に役に立ったプログラムや関わりはなんでしたか?
声:退職後に就労移行支援事業所※6を利用しようと思っていたのですが、その頃はまだ働き方はオープン就労かクローズ就労か※7で迷っていたので、ふなサポも併用してみることにしました。それに、通所予定の支援事業所は私が前から身につけたかったPCスキルを学ぶ場としては良かったですが、新しくできたばかりという事もあって、利用者さんが殆どいない状況で、支援員さんとの1対1での個別訓練がメインでした。先ほどもお伝えした通り、私の課題として対人関係があったので利用者さん達と接することで距離感を学びたいという想いがありました。ふなサポは利用者さんの数も多く、グループワークを行うセミナーも多かったので助かりましたし、丁度コロナ対策としてセミナー参加人数も6名に限定していたのですが、まだ距離感がつかめない私にとって6名という人数は丁度良かったですね。お陰で、対人関係の課題はだいぶ克服できたかなと感じています。個々のセミナーで、マナー講座は、お辞儀の仕方や利用者さん同士で名刺を実際に渡すなど、仕事で使える実践的なものを学びました。また、実務的なものでは、社労士さんの仕事体験講座のグループワークや労務講座が良かったです。そうそう、その講座で学んだ箇所が公務員試験に出たんです!
イ:それは良かったですね!ふなサポでも就労移行支援事業所とは定期的に連携をとっていました。就労移行では主にMOS※8の勉強、公務員試験を受けると決めてからは試験対策を一生懸命されていたというのは就労移行の支援員さんからも聞いています。MOSの取得や試験対策などの過程を知りたい方も多いので、教えてもらっていいですか?
声:パソコン系の資格は前々から取得を考えていて、MOSは前職在籍中からパソコン教室に通いながら取り組んでいました。まずはExcelスペシャリストを今年の2月25日に取得、Wordスペシャリストを5月16日に取得、PowerPointを6月15日に取得しました。その時点でもういいかなとも思ったのですが、ここまできたらMasterを取ろうと思い、独学で勉強をつづけました。その結果、Excelのエキスパート(上級レベル)を7月14日、Wordエキスパートを8月15日、Accessを8月31日に取得して、無事Masterになることができました。
(スケジュール表は確認せずに日付を2~3秒ほど思い出しながらも淀みなく回答)
イ:すごい…よく日付をそこまで正確に覚えていますね。驚くほどの記憶力です!
声:私、昔から記憶力が凄く良いといわれるのです。これも発達障害の特性の一つなんだと思います。内定までの道のりを続けます。Masterになった後、9月から本格的に公務員試験対策に移りました。昔から思い入れの強い市役所があって、2016年と2018年に一般枠として受験して不合格で、三度目の正直として2020年は障害者枠で受けました。そこは障害者枠の採用人数がとても少ないという事もあって、父親から保険にもう一つぐらい他の自治体の公務員試験を受けてみればと提案されました。別に公務員に拘っていたわけではなくて、最初の市役所が不合格だったら民間企業を受けてみようと思っていたので、とても迷いました。なによりその自治体は試験に苦手な作文があったのです。でも、就労移行の支援員さんが作文対策も手伝ってくれるというので、受けてみることにしました。就労移行では筆記対策と作文対策、同時並行でふなサポのセミナー参加、筆記試験が通った後は聞かれる質問を想定しての面接トレーニングを何回も行いました。とても大変な日々でしたが、サポートしてくれる方々がいたので苦とは思いませんでした。
イ:夏頃に声さんが作成された『公務員試験合格の道』というシートを見せてもらいましたが、試験日までにどういった勉強をするかの綿密なスケジュールが書かれていてとても印象的でした。また、面接試験の翌日に振り返り用として、面接でのやり取りを一語一句文字起こししたシートを持ってきてもらいました。そういった努力が実を結んだ形での合格という結果なのでしょうね。
声:思い入れのあった市役所は不合格でしたが、もう一つの自治体は合格しました。結果が分かった時は嬉しかったですね。受けることを進めてくれた父親には本当に感謝です。
イ:その自治体での障害特性に応じた合理的配慮はどういったご様子ですか?
声:既に人事の方との顔合わせや勤務にあたっての書類一式は頂いているのですが、私の特性を伝えたところ、集中力を持続させる為に休憩を分散してくれるそうです。勤務地も自宅から近くてできれば乗り換え1回までという要望も汲んでくださった上での配属先に決まりました。また、障害者雇用向けの相談窓口が設置されているのもありがたいです。それに、就労移行の支援員さんが定着支援として定期的に職場訪問してくださるとのことです。ふなサポでも土曜日開催のセミナー※9や振り返り面談は続けていく予定ですのでこれからもよろしくお願いします。
イ:働き始めた後にこそ、色々と相談したいことが出てくるかと思いますが、サポート体制も万全ですね。それでは、今後、こうなっていたいという希望や夢があれば聞かせて下さい。
声:まずはお仕事に慣れることですが、慣れてきたら私の経験を何らかの形で伝えたいなと思っています。それと、これはまだ漠然としたものなのですが、いつかパソコン教室を開講したいなと思っています。もともと人に教えるのは好きなんですよね。
イ:声さんの経験は発達障害がありながら就職を目指している人にとって、勇気を与えてくれるでしょう。まずはこのインタビューの場でより多くの方にその経験を知ってもらいたいですね。最後の質問になります。まだふなサポへの『さいしょの一歩』を踏み出せていない方に対してメッセージをお願いします。
声:発達障害は病気ではなくて特性です。その特性が活かせる場も必ずあります。なので、くさらず、さいしょの一歩を踏み出してみては?
(令和3年3月インタビュー実施)
【注釈】
※1:『千葉県子ども・若者総合相談センター「ライトハウスちば」』千葉県の委託事業で、39歳までの子ども・若者、その御家族や御関係者等を対象とした無料の相談窓口。令和2年度の時点でふなサポと同じNPO法人セカンドスペースが委託運営。https://lighthouse.pref.chiba.lg.jp
※2:『今までライトで相談したことも把握した上で』本人が希望する場合において、ふなサポは本人の同意を得た上で他機関と連携・情報共有しながら支援をおこなっている。
※3:『発達障害』発達障害は、生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態。自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などが含まれる。
※4:『精神障害者保健福祉手帳』精神障害や発達障害があることを証明する手帳。等級に応じて各種福祉制度が利用できる。
※5:『障害者雇用枠』障害のある方がそれぞれの能力や特定に応じて働く機会を得られるように、自治体や企業が特別な採用枠で雇用すること。また、自治体や企業はその規模に応じて一定の割合の障害者を雇用する義務がある。
※6:『就労移行支援事業所』障害がある方の為の障害福祉サービスのひとつ。一般企業等への就労を希望する人に、一定期間、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練をおこなう。サポステとの併用が可能。
※7:『オープン就労かクローズ就労か』障がいのあることを企業に開示して就職する働き方。障がいに対する合理的配慮を受けられたり、空白期間に関する理由を説明し易くなる等のメリットがある一方で、求人の幅が狭まったり、敢えて障害を開示しないクローズ就労と比べて給与が劣るなどのデメリットもある。就労移行はオープン就労、サポステはクローズ採用の支援ノウハウが豊富という特徴がある。
※8:『MOS』Microsoft Office Specialist(マイクロソフト オフィススペシャリスト)マイクロソフトが認定する、Microsoft Officeに関する国際資格。WordとExcelのエキスパート及びPowerPoint、AccessとOutlookのいずれか1科目の合格でMicrosoft Office Master(マイクロソフト オフィスマスター)に認定
※9:『土曜日開催のセミナー』ふなサポでは土曜日には就職した方の為のステップアップや定着を目指したセミナーを開催することが多い。